とある男の日記②
今日、童貞を捨てる。
思えば、21歳になるまでこういった浮ついたことを経験するのは全くと言っていいほどなかった。
中学生の自分は「大学生になれば誰だって童貞を捨てているし、彼女だって作っているはずだ」と当然のように思っていた。
もし、あの頃に戻ることができるのならば、助走をつけてグーで殴りつけている。
空からヒロインが降ってくることもなければ、朝目覚めると全裸の美少女が布団に潜り込んでいることもない。
行動だ。
自分から行動しなければ、この世に微粒子レベルで存在している可能性をつかみ取ることなどできるワケがないのだ。
だから行動した。
「某ウイルスのせいで金が貯まっていく一方だし。暇だし。俺童貞だし」と自分を正当化し、己の中に僅かばかり残った男気を捻りだし、そういったことに精通している友人に連絡を取った。
『最高の射精にしよう』
21年間守り通してきた相棒とも呼べるこの称号を、せめてもの供養として悔いなく旅立たせてやろう。
そう考えた自分は、ひとつの試練を己に課すことにした。
「一週間のオナ禁」である。
初めての風俗で中折れしましたなど男として恥、一生皆の笑いものだ。
そうならないためにも勢力、いや精力を高めておく。
最初の二日間は辛く、苦しかったがASMRを聴いて乗り切った。
三日目以降、ある変化に気づく。
身体が軽い。高校生の頃のように軽い。
有り余るエネルギーをランニングに費やし、早寝早起きを繰り返す。
そんな日々を繰り返し、ついに迎えた今日、夢を見た。
風俗店の部屋にいる自分は仲間たちが次々と快楽へと向かっていくのを見送り、指名した嬢を待っている。
扉が開かれ現れたのは、絶世の美女であり、自分の好奇心と興奮は既にクライマックス直前になっていた。
一度シャワーを浴びようと嬢が言うので、意を決して浴室の扉を開けると、何故か高校時代のプールが広がっていた。
高校の教師、あの頃の友人達が自分を凝視している。
嗚呼、これではシャワーどころではないではないか。
そうやって手をこまねいている間に60分が過ぎ、何もできずに絶望したところで目が覚めた。
思い返せば意味不明な夢であったが、こうやって日記をまとめている今ならわかる。
これは21年間共に連れ添ってきた童貞が見せた警告なのだ。
いつまでも受け身で行動していれば、あの夢のように何もできずに終わるのだと。気を引き締めていけと。
ただの都合のいい自己解釈だと言われればそれまでだが、今日という日にこんなものを見るのだから、勘繰らずにはいられない。
21歳、大学4回生。
3月25日、水曜日。
今日、ずっと傍にいてくれた相棒に別れを告げる。
童貞から素人童貞になるだけだぞ
ヤリチンと化した俺<しね